フランス北東部に位置するナンシーは、アール・ヌーヴォーの都として知られる芸術と建築の宝庫。第一次世界大戦後にはアール・デコの影響も色濃く受け、街はまるで“屋根のない美術館”のよう。建築やデザイン、アートの歴史に興味がある方にはたまらない、3日間のモデルコースをご紹介します。
🏛 1日目|街の中心で出会う、2つの芸術様式の対話
ナンシー中心部では、アール・ヌーヴォーとアール・デコの建築がごく近くに並び、互いに語りかけてくるかのよう。
例えば、クレディ・リヨネ銀行 Crédit Lyonnais (LCL) のカラフルなガラス天井はアール・ヌーヴォーの繊細さを、対するケス・デパーニュ銀行 Caisse d'épargne のファサードはアール・デコの幾何学的な力強さを物語ります。
サン・ジャン通り Rue Saint-Jeanでは、植物の曲線が美しい旧穀物商「グレヌトリー la Graineterie」が、隣の重厚な旧ビアホールの建物と対照をなしています。
クレディ・リヨネ銀行
7 Bis Rue Saint-Georges, 54000 Nancy, France
ケス・デパーニュ銀行
Pl. Dombasle, Nancy, France旧穀物商 グレヌトリー
2 Rue Bénit, Nancy, France
駅の向かいに建つデパート「プランタン Printemps 」(旧マガザン・レユニ anciennement Magasins Réunis)は、建築様式の移り変わりを象徴する存在です。もともとはアール・ヌーヴォー様式で建てられていましたが、戦災で失われた後、アール・デコ様式で再建されました。
すぐ近くには、ナンシー商工会議所 Chambre de Commerce et d’Industrie のステンドグラスが、世紀転換期の豊かな装飾美を今に伝えています。
プランタン
2 Av. Foch, Nancy, France
ナンシー商工会議所
40 rue Henri Poincaré, Nancy, France
ぜひ立ち寄りたいのが、老舗ブラッスリー「エクセルシオール la brasserie Excelsior」。アール・デコ様式の入り口をくぐると、内部はアール・ヌーヴォーの雰囲気が広がる明るく開放的な大広間が迎えてくれます。
ブラッスリー・エクセルシオール
3 Rue Mazagran, Nancy, France

スタニスラス広場へと下る途中には、現在ZARAが入っている場所に、かつてロレーヌ地方を代表するアール・ヌーヴォーの巨匠が創設した「マジョレル商会 anciens Magasins Majorelle」がありました。彼はアール・デコ様式の家具デザインでも知られる存在です。ペピニエール公園 Parc de la Pépinière をのんびり散策も楽しみましょう。
マジョレル商会の旧店舗
16-24, rue Saint-Georges, Nancy, Franceペピニエール公園
Parc de la Pépinière, Nancy, France
1日目の締めくくりには、ナンシー美術館 musée des Beaux-Arts de Nancy へ。ドーム Daum 兄弟によるガラス作品のコレクションは、アール・ヌーヴォーとアール・デコ、ふたつの美の間を揺らめくような、色彩と曲線の饗宴です。
その後は、ゴドロン庭園 Jardin Godron やアール・デコ様式の建物が印象的なナンシー博物館・水族館 Museum-Aquarium de Nancy を訪れれば、穏やかな余韻とともに一日を締めくくることができることでしょう。
ナンシー美術館
3 Place Stanislas, Nancy, France
ゴドロン庭園
36 Rue Sainte-Catherine, Nancy, Franceナンシー博物館・水族館
34 Rue Sainte-Catherine, Nancy, France
🏛 2日目|ナンシー・テルマルと「ナンシー派」の精神にふれる
この日は、20世紀初頭に建てられた優雅な邸宅が並ぶナンシー・テルマル周辺へ。
20世紀初頭に建てられた美しいヴィラが並び、建築好きにはたまらないエリアです。なかでも フェリックス・フォール通り Rue Félix Faure には、アール・ヌーヴォーやアール・デコ様式の住宅が立ち並び、当時の美意識を今に伝えています。
フェリックス・フォール通り
Rue Félix Faure, Nancy, France
スパやプール、温泉療養エリアを備えた「ナンシー・テルマル Nancy Thermal」では、散策の合間に心と身体をリフレッシュするのもおすすめです。
ナンシー・テルマル
41 Rue Sergent Blandan, Nancy, France

ナンシー派美術館
38 Rue Sergent Blandan, Nancy, Franceすぐ近くにある「ナンシー派美術館 Musée de l'École de Nancy」は、エミール・ガレ、ルイ・マジョレル、ヴィクトール・プルーヴェ、ジャック・グリュベールらを中心にナンシーで誕生した芸術運動“ナンシー派”の作品を専門に紹介する、唯一無二の美術館です。

徒歩数分の場所には、アール・ヌーヴォー住宅建築の傑作「マジョレル邸 Villa Majorelle」も。ステンドグラスや鉄細工、流れるような曲線美が訪れる人を魅了します。
自然の中でひと息つきたい方には、観光客にはあまり知られていないサント・マリー公園 Parc Sainte-Marie がおすすめ。穏やかな空気に包まれたこの公園は、散策にもぴったりです。
マジョレル邸
1 Rue Louis Majorelle, Nancy, France
サント・マリー公園
1 Av. Boffrand, Nancy, France🏛 3日目|屋外美術館のような街並み、ソリュプ地区
旅の締めくくりに訪れたいのが、あまり知られていないものの実は見どころ満載のソリュプ地区 quartier Saurupt。
20世紀初頭に計画的に開発されたこの住宅街には、アール・ヌーヴォーやアール・デコにインスピレーションを得た見事な邸宅が数多く残されています。
この地区の開発を担った建築家エミール・アンドレは、自身が設計した邸宅もこの地に残しています。なかでも、1902年に友人のワイン商フェルンバックのために建てた「グリシーヌ(藤の花)邸 Villa Les Glycines」は必見です。
出窓、装飾鉄細工、モザイク、浮き彫り装飾…一軒一軒がまるで芸術作品のようで、建築家たちの創造力が花開いた「遊び場」とも言える空間です。
グリシーヌ(藤の花)邸
5 Rue des Brice, Nancy, France
ナンシーの魅力は、遺産を“見る”だけでなく、“感じる”ことにあります。曲線と直線が織りなす街並みには、ふたつの芸術様式 ―アール・ヌーヴォーとアール・デコ― の息吹が今もなお生き続けています。

by France.fr編集部
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