フランス必訪の名城セレクション

インスピレーション

文化・遺産

Bestjobers
© Bestjobers

この記事は 0 分で読めます2025年9月25日に公開

断崖の上にそびえる城塞へと登ったり、中世の城でまるでおとぎ話の世界を味わったり、ルネサンスの優雅な邸宅でゆったりと時を過ごしたり…。フランスには実に約4万5千もの城があると言われています。

ハイキングとともに訪ねられる城、王の菜園を受け継ぎいまや有機農業の実験場となっている庭園、そして生物多様性の宝庫として再生するフランス式庭園など、多彩な楽しみ方が広がります。

今回は、その中から厳選した「フランスで訪れるべきお城15選」をご紹介します。まさに“王侯気分”を味わう旅へ出かけてみませんか?

シャンボール城(サントル・ヴァル・ド・ロワール):異彩を放つ名城

Château de Chambord, Chambord, France

ロワール渓谷・シャンボール城に広がる持続可能な菜園
© Léonard de Serres / Château de Chambord - ロワール渓谷・シャンボール城に広がる持続可能な菜園

ロワールの華とも称される壮麗なシャンボール城。その敷地内では、17世紀から続く菜園が近年復活し、いまや約5ヘクタールにわたって有機農法で野菜や果樹が育てられています。ルネサンス期に食べられていた古代野菜を購入できるという、ちょっと特別な体験も。

果樹やナッツ類、野菜、ハーブや薬草まで、栽培される品目は実に多彩。単なる生産の場ではなく、未来の農業を考える「実験室」としての役割も担っています。ガイド付き見学やパーマカルチャーのワークショップ、週末の菜園体験など、訪れる人々に自然と食の大切さを伝えています。

ルネサンス建築の華麗な内部装飾を楽しんだあとには、フランス国王たちが愛した「美」と「味」の伝統を受け継ぐ菜園で、庭師気分を味わってみてはいかがでしょうか。

▶シャンボール城公式サイト


 

ヴェルサイユ宮殿(イル・ド・フランス):知られざる魅力

Château de Versailles, Versailles, France

パリ近郊・ヴェルサイユ宮殿の庭園
© T.Garnier / Château de Versailles - パリ近郊・ヴェルサイユ宮殿の庭園

2023年に建設から400年を迎えたヴェルサイユ宮殿。
太陽王が遺した壮麗な宮殿と、幾何学模様に整えられたフランス式庭園はあまりにも有名ですが、その奥には静かにもうひとつの物語が広がっています。

かつて王の狩猟場だった315ヘクタールの森は、今では豊かな自然が息づく聖域へ。湿地が生まれ、ミツバチが舞い、鳥やリスたちが自由に暮らすこの森は、訪れる人々に穏やかな驚きを与えてくれます。

豪華絢爛な宮殿を後にして一歩森へ入れば、さえずりや木の葉のざわめきに包まれ、ヴェルサイユが秘める自然の詩に出会えるでしょう。

▶ヴェルサイユ宮殿公式サイト


 

ブルターニュ公爵城(ペイ・ド・ラ・ロワール):市民に開かれたお城

Château des ducs de Bretagne, Place Marc Elder, Nantes, France

ナントのブルターニュ公爵城と前庭の水の鏡
© Guillaume Chevalier / CRT Pays de la Loire - ナントのブルターニュ公爵城と前庭の水の鏡

ナントを訪れるなら、この城を抜きに語ることはできません。15世紀末以来、ブルターニュ公国の旧都の中世地区にそびえるブルターニュ公爵城は、まさに街の記憶を宿す存在です。

イタリア・ルネサンス様式を思わせる彫刻で彩られた美しい外観の奥には、32の展示室が広がり、ナントの歴史、そしてさらに普遍的な物語を伝えています。そこには、大西洋奴隷貿易における重要な拠点としての過去、第二次世界大戦、産業化の歩みといった、時に重い歴史も含まれています。

1,000点を超える貴重なコレクションの一部は市民から寄贈されたもの。さらに「Tourisme & Handicap(ツーリズム&ハンディキャップ)」の認証を受け、誰にでも開かれた「市民の城」として、過去と現在をつなぎ続けています。

▶ブルターニュ公爵城 公式サイト


 

オー・クニクスブール城(グラン・テスト):天空の鷲の巣

Orschwiller, France

Pierre Defontaine / ART GE
© Pierre Defontaine / ART GE

まるで鷲の巣のよう!
標高755メートル、ストファンベルク山の頂にそびえるオー・クニクスブール城 Château du Haut-Koenigsbourg は、かつてシュヴァーベン公の領地として繁栄し、北の穀物とワイン、南の塩と銀を結ぶ交易路を押さえる要衝でした。

北塔から南塔まで、1.5ヘクタールにおよぶ広大な砦を歩けば、19世紀に中世愛好家の建築家によって復元された堂々たる建築が目の前に広がります。

散策の後は城内のレストランへ。
古代小麦スペルト小麦で作られた器に盛られる中世風料理や、オーガニックの特産料理を味わうことができます。

壮大な景観とともに、中世の世界にひととき浸ってみませんか?

▶オー・クニクスブール城公式サイト


 

レ・ボー城(南仏プロヴァンス):石が語る城

Château des Baux-de-Provence, Rue du Trencat, Les Baux-de-Provence, France

R. Cintas-Flores / Provence Tourisme
© R. Cintas-Flores / Provence Tourisme

アルピーユ山地の中心にそびえるレ・ボー城。その創建者であるボー家の君主たちは、自らを東方の三博士のひとり・バルタザール王の末裔だと称していました。伝説とともに歩んできたこの城は、波乱に満ちた歴史を刻み、幻想的な廃墟と遺構の姿を今に伝えています。

13世紀の天守から、フランス初のデジタルアートセンター「Carrières de Lumières」が開かれる“地獄の谷” Val d’Enfer まで。
さらに城と一体となった村や岩をくり抜いた住居群を巡れば、まるで石の世界を旅するような感覚に誘われます。

レ・ボー・ド・プロヴァンスの白い石は、この城だけでなく、近隣サン・レミ・ド・プロヴァンスの古代遺跡・グラヌム Glanum を築く素材にも使われました。
城そのものが、大地と歴史の物語を語りかけてくれるのです。

▶レ・ボー城公式サイト


 

ヴィランドリー城(ロワール渓谷):フランス庭園の宝石

Château de Villandry, Rue Principale, Villandry, France

F.Paillet / Château de Villandry
© F.Paillet / Château de Villandry

“フランスの庭園”と称されるヴィランドリー城。その秘密は天守からの眺めにあります。そこから見渡せるのは、ルネサンス末期の優美な建築に調和する、色彩と幾何学模様の楽園。

十字やハートの形に刈り込まれたツゲの緑に、赤いチューリップや青いワスレナグサが彩りを添え、水鏡が空を映し出す…。数え切れないほどの草花とデザインが織りなす景観は、まさに芸術そのものです。

六つの庭園のなかでも圧巻なのは、9区画に区切られた装飾菜園。ルネサンス様式そのままに整えられ、四十種類以上の野菜が有機栽培で育ちます。美しく、そして味わうこともできる庭園は、まさにフランス庭園文化の真髄です。

▶ヴィランドリー城公式サイト


 

クロ・ド・ヴージョ城(ブルゴーニュ):ワインの聖地

Château du Clos de Vougeot, Rue de la Montagne, Vougeot, France

Alain Doire / BFC Tourism
© Alain Doire / BFC Tourism

ブドウ畑に抱かれるように建つルネサンス様式の美しい館、クロ・ヴージョ城。ここでは900年以上にわたり、世界で最も愛されるブルゴーニュワインの歴史が紡がれてきました。

城内には、修道士たちが丹精を込めてワイン造りに励んだ名残が今も息づいています。巨大な木製の圧搾機が並ぶ醸造所、石造りの貯蔵庫、修道士たちの宿舎跡…。すべてがブルゴーニュの風景を形づくってきた彼らの営みを物語ります。

現在ここは「シュヴァリエ・デュ・タストヴァン(ワイン騎士団)」の本拠地でもあり、訪問の最後には五種類のタストヴァナージュワインを試飲できる特別な体験が待っています。チーズ風味のシュー生地菓子グジェールとともに味わえば、ブルゴーニュの“食とワインの芸術”を心ゆくまで堪能できます。

▶クロ・ド・ヴージョ城公式サイト


 

シャンティイ城(オー・ド・フランス):美食と芸術の楽園

Château de Chantilly, Rue du Connétable, Chantilly, France

Jérôme Houyvet / Domaine de Chantilly
© Jérôme Houyvet / Domaine de Chantilly

17世紀にル・ノートルが設計したフランス式庭園は、噴水や水鏡のきらめきを今も伝え、2.5kmに及ぶ大運河やヴェルサイユ宮殿のトリアノンに着想を与えた「ハムー村」など、見どころが満載。115ヘクタールの広大な庭園は、小さな観光列車や自転車、カート、電動ボートなど“やさしい移動手段”で巡るのがおすすめです。運が良ければ隣接する森に棲む野生動物にも出会えるかもしれません。

屋外散策の後は城内へ。とくに「コンデ美術館」は、ルーヴルに次ぐ規模の古典絵画コレクションを誇ります。そして締めくくりはやはり美食。ハムー村のレストランでは、地元の特産品とともに、ここが発祥の地である“本場のシャンティイ・クリーム”を味わうことができます。

芸術、自然、美食がひとつに融合するシャンティイ城で、心と舌を満たすひとときをどうぞ。

▶シャンティイ城公式サイト


 

ガイヤール城(ノルマンディー):印象派が愛した絶景

Château Gaillard, Les Andelys, France

J.F. Lange / ADT de l'Eure
© J.F. Lange / ADT de l'Eure

セーヌ川の曲がりくねる崖の上に築かれて800年以上。リチャード獅子心王が建てた要塞ガイヤール城は、いまは静かに川と周囲の自然を見守っています。周辺は「Natura 2000」に登録された保護地域で、石灰質の草地に広がる丘陵には、城壁や塔とともに数多くの希少植物が息づいています。

この風景こそが、印象派の画家たちを魅了しました。彼らのキャンバスに描きとめられたガイヤール城の姿は、ノルマンディーでも屈指の絵になる絶景を、今も訪れる人々に語りかけています。


 

カルカッソンヌ城(オクシタニー):最強の要塞都市

Chateau de Carcassonne, Carcassonne, France

G.Deschamps / CRT Occitanie
© G.Deschamps / CRT Occitanie

ユネスコ世界遺産に登録されている城塞都市カルカッソンヌ。その堅固な城壁の内部にさらに築かれたのが、伯爵の居城・カルカッソンヌ城です。
8つの塔と2つの天守、見張りの回廊を備えた「要塞の中の要塞」は、中世の軍事建築の典型といわれています。

12世紀の建造物は、もし19世紀に建築家ヴィオレ・ル・デュックによる大規模な修復が行われなければ、今日の姿を見ることはできなかったでしょう。
現在では、バルバカン(外堡)や中庭、物見の塔を歩きながら、古代ローマ時代から騎士の時代までのコレクションを見学できます。

なかでも必見は1926年に再発見されたロマネスク壁画。
サラセン人との戦いを描いた鮮やかな壁画は、中世の戦乱の息吹をいまに伝えています。歴史の重厚さに包まれながら、スニーカーを履いて要塞都市を歩けば、時を超えた冒険気分に浸れるでしょう。

▶カルカッソンヌ城公式サイト


 

アバディア城(ヌーヴェル・アキテーヌ):好奇心をくすぐる城

Hendaye, France

 Marc / Adobe Stock
© Marc / Adobe Stock

壁面に刻まれたガーゴイルやワニ、蛇…。まるで不思議な動物園のような装飾が迎えるのは、バスク海岸の断崖に建つアバディア城です。建築家ヴァイオレ=ル=デュックが手がけたアイルランド風ネオ・ゴシック様式の館は、その創設者アントワーヌ・ダバディの多彩な趣味を映し出す存在でした。

旅行、言語学、天文学に情熱を注いだ彼は、この城を自らの邸宅であり天文台として築き上げました。館内を巡るガイドツアーでは、オリエンタルなモチーフと中世風装飾が混じり合う、まるで「驚異の部屋」のような空間を体験できます。なかでも圧巻は主人の寝室。純粋なフランボワイヤン・ゴシック様式で仕上げられた、まさに見どころのひとつです。

さらに、館を取り囲むアバディアの敷地は「自然保護区」に指定されており、多様な景観が楽しめます。断崖絶壁からヒースやハリエニシダに覆われた荒野、そしてのどかな牧草地まで、自然の変化に富んだ散策が待っています。

▶アバディア城公式サイト


 

グリニャン城(オーヴェルニュ・ローヌ・アルプ):文学と芸術の城

Château de Grignan, Rue Montant au Château, Grignan, France

 L.Pascale / Drôme Tourisme
© L.Pascale / Drôme Tourisme

一方にはオークや松の森とエニシダの茂る荒野、もう一方には陽光に揺れるラベンダー畑とぶどう畑。断崖の上にそびえるグリニャン城の大テラスからは、ドローム・プロヴァンサルの雄大な景観と、モン・ヴァントゥやデントゥル・ド・モンミライユの壮観な眺めが広がります。

中世の要塞として誕生し、ルネサンスの城へと姿を変えたこの場所は、かつて文筆家セヴィニエ侯爵夫人の滞在先としても知られています。現在では、コンサートや演劇上演、ワインの試飲会やヨガセッションまで、歴史を体感すると同時に、現代的なプロヴァンスのライフスタイルに触れられる空間となっています。
過去と現在、歴史と芸術、文学と暮らしが交差するグリニャン城。訪れる人を時を超えた物語へと誘います。

▶グリニャン城公式サイト


 

シュノンソー城(ロワール渓谷):水辺にたたずむ夢の城

Château de Chenonceau, Chenonceaux, France

Bestjobers
© Bestjobers

自転車でもカヌーでも、たどり着く先は必ずシュノンソー城。シェール川(ロワール川の支流)の上に優雅に建つこのルネサンス様式の城は、“スロー・ツーリズム”にぴったりの目的地です。

川沿いに広がる水車や森を抜けるサイクリングルートを走ったり、カヌーに揺られて川面を進めば、鯉や水鳥、レオナルド・ダ・ヴィンチが考案した閘門を目にすることも。

旅のハイライトは何といっても、川を跨ぐ城の回廊のアーチをくぐる瞬間。特に夜明けや夕暮れ時には、水面に映るその姿が幻想的な光景を描き出し、まるで夢の世界に迷い込んだような気分にさせてくれます。

▶シュノンソー城


 

コンブール城(ブルターニュ地方):フランス・ロマン主義の源泉

Château de Combourg, Rue des Princes, Combourg, France

Francois / Adobe Stock
© Francois / Adobe Stock

コンブール城で木の義足の伯爵の幽霊に出会うことはないかもしれません。ですが、この中世の要塞を前にすれば、フランス・ロマン主義の原点に触れることができます。19世紀にネオ・ゴシック様式で修復されたこの城は、作家フランソワ=ルネ・ド・シャトーブリアン(1768–1848)の少年時代の住まいのひとつでした。

彼が後年『墓の彼方の回想録』に記したように、「義足が黒猫とともに勝手に歩き回った」と噂された大階段や、幼少期を過ごした塔の一室。館の至るところに“フランス・ロマン主義の父”の気配が息づいています。

25ヘクタールに及ぶ公園もまた、彼の著作に基づき19世紀に造園家デニ・ビュラーとウジェーヌ・ビュラーによって再整備されました。樫や菩提樹、マロニエの並木に囲まれ、シャトーブリアンが自然と一体化したと感じたように、訪れる人も心を解き放ち、文学的な時間に浸ることができます。

▶コンブール城公式サイト


 

ケリビュス城(オクシタニー):天空を目指す城

Château de Quéribus, Cucugnan, France

Eloleo / Adobe Stock
© Eloleo / Adobe Stock

ハイキング好きなら見逃せないのが、標高729メートルの断崖にそびえるケリビュス城。カタリ派の道「GR367」のルート上に位置し、たどり着くには三重の城壁を抜け、さらに数百メートルの坂道を登らなければなりません。

しかし、その先に待つのは壮大なご褒美。天守からの360度パノラマは、ピレネー山脈から地中海までを見渡す圧巻の絶景です。

城を後にしたら、ふもとの丘に寄り添うククニャン村へ。中世の面影を残す建物や修復された風車を訪ねたり、古代品種の小麦を使ったパンや焼き菓子を売るパン屋に立ち寄ったりと、素朴で温かなひとときを楽しめます。

▶ケリビュス城公式サイト


 

by ドゥロルム アンヌ=クレール・

旅行ジャーナリスト