バイヨンヌのアトリエ・デュ・ショコラの舞台裏

アトリエ・デュ・ショコラはチョコレートの都バイヨンヌの歴史あるチョコレート・メーカーです。 五感を総動員して──熱帯雨林の木々のそよぎに耳をすませ、ホット・チョコレートのにおいをかぎ、口どけなめらかな板チョコにかじりつきながら──バイヨンヌのアトリエ・デュ・ショコラで、伝統的なチョコレートづくりの舞台裏をのぞいてみましょう。豆の状態から斬新なチョコレートに変身するまで、そして私たちの口に入るまでの壮大な冒険を、一歩一歩たどっていきます。「ブーケ・ド・ショコラ」(チョコレートの花束)という、アトリエ・デュ・ショコラを代表するクリエイティビティあふれる製品もご紹介します。

彫刻家セザールチョコレートを結びつけるものはなんでしょう? 答えは、バイヨンヌのアトリエ・デュ・ショコラです。同社は1951年の創業。創業者の息子であるセルジュ・アンドリューが経営を引き継ぎましたが、セルジュが経営者を務めていたときに、セザールの「圧縮(コンプレッシオン)彫刻」(自動車をプレス機で平らに圧縮した彫刻作品などがあります) から着想を得て考案したのが、アトリエ・デュ・ショコラの名物「ブーケ・ド・ショコラ」(チョコレートの花束)です。これは、チョコレートを薄く伸ばし、圧縮された金属のようにしたものを割って、飾りのついた三角袋に詰めたものです。

それから25年の月日が経った今日、アトリエ・デュ・ショコラのすべての工場併設ブティックでは、カカオバター100%の薄いチョコレートをつくる「タブラージュ」(マーブル台の上に溶かしたチョコレートをのばすこと) の技術を目の当たりにすることができます。チョコレートはとても薄い、3ミリの薄さまで伸ばされます。30種類ほどのフレーバーがあり、口に含むとすぐに強いアロマが広がります。

ハシバミ、ゴマ、ヌガティーヌ(キャラメルに砕いたアーモンドを加え、薄く伸ばしたもの) 、ブラック・チョコレートのようにコクのあるものや、ホワイト・チョコレートのようになめらかなものなど、好きなものを組み合わせてブーケをつくることができます。その日のおやつの時間に楽しみたいフレーバーを選んでもいいでしょう。

バイヨンヌのチョコレートの歴史

大切な機会に、お礼やお祝いメッセージをチョコレートに書くこともできます。チョコレートの花束の花をむしりながら、愛の告白をしてみてもいいでしょう。歴史を紐解いてみると、17世紀のバイヨンヌには、街に立ち寄った高貴な客にチョコレートを贈るならわしがありました。記録によれば、ヴォーバン元帥は16リーブル(およそ6〜8.8キロ)ものチョコレートを贈られたそうです!

バイヨンヌとチョコレートの間には、相思相愛の長い歴史がありますが、この激しい愛は一般にはあまり知られていません。この壮大な物語と伝統技術の誕生について学ぶために、アトリエ・デュ・ショコラ本店のツアーに参加してみましょう。1時間30分ほどで、カカオ加工の舞台裏を紹介してくれます

チョコレートづくりの秘密にせまる旅

ツアーは、カカオの木が茂る熱帯雨林を思わせる、小鳥のさえずりと光から始まります。次に、カカオ豆が実から取られ、チョコレートになって私たちの口に入るまでをたどる短い映像が流れ、チョコレートづくりで使われていた古い機械や道具のコレクションの展示が続きます。

チョコレートの歴史をさかのぼるツアーは、まさに大航海時代の長旅のようです。チョコレートは最初、南米のアステカ族やマヤ族の飲み物でしたが、16世紀はじめにアメリカ大陸を征服したスペイン人の「コンキスタドール」たちによってヨーロッパにもたらされました。さて、旅が終わったら、いよいよチョコレートづくりの秘密にせまります。

ガナッシュやプラリネなどの詰め物

月曜日から金曜日までの毎日、チョコレート職人がガナッシュやプラリネなどの詰め物を作る様子を、工場のガラスごしに見学することができます。17世紀のフランスに、カカオ豆からチョコレートをつくる技術を伝えたのは、バイヨンヌに亡命したスペインとポルトガルのユダヤ人たちでした。彼らは、「チョコレート製造者」と呼ばれましたが、詰め物づくりはその伝統につらなるとても緻密な作業です。

当時、チョコレートは、王族も好んだ贅沢品でした。たとえばスペインのマリー・テレーズ王女は、1660年にサン・ジャン・ド・リューズでルイ14世と結婚したのちに、チョコレートを宮廷に持ち込んでいます。それからほどなくして、チョコレートによってバイヨンヌの街の名声が高まる出来事が起こります。1809年に作られたフランスで最初の美食地図に、バイヨンヌのチョコレートが載ったのです。

伝統製法のチョコレートのための学校

今日、多くのチョコレート職人がチョコレートづくりを機械化していますが、バイヨンヌのアトリエ・デュ・ショコラは、アカデミー・デュ・ショコラ・ド・バイヨンヌ(バイヨンヌのチョコレート・アカデミー)に結集するほかのメーカーと同じく、伝統的な製法を守り続けています

食欲をそそるツアーの後では、溶かしたチョコレートが入った容器に思わず指を入れたくなってしまいます。4歳から12歳の小さなグルメたちを対象とした遊びのワークショップでは、チョコレートに触れながら、チョコレートボンボンや魚形のチョコレートに絵を描くことができます

アトリエ・デュ・ショコラは、チョコレートのテイスティング・スペースを解放しているので、こちらは大人でも楽しむことができます。ここでは、チョコレート職人がワインの醸造技術者のようにアサンブラージュした「グラン・クリュ」のチョコレートの見わけ方を学びます。たとえば、エクアドル産とサン・トメ・プリンシペ産、コートジボワール産のカカオ豆のみを用いたカカオ70%の「キレツァ」やカカオ97%の「エクストラ・キレツァ」、マダガスカル産のカカオを使ったチョコレートなどです。

エスプレット唐辛子の斬新なアロマ

同社の名物は、バスク地方特産のエスプレット唐辛子の風味をきかせた、斬新なアロマのブラック・チョコレートです。また、バニラとアーモンドツルコケモモ風味のホワイト・チョコレートも有名です。

2020年のはじめには、新製品を発表する予定です。世界でもっとも希少な品種であるクリオロ種のカカオをベースとした板チョコレートです。アトリエ・デュ・ショコラはこのクリオロ種のカカオをメキシコで数ヘクタールにわたって栽培し、その保存にも協力してきました。バイヨンヌのチョコレートにますます夢中になってしまいそうです。