ブルゴーニュやシャンパーニュと並び、ボルドーのワイン産地は世界でも屈指の知名度を誇ります。
ブライユ、マルゴー、ポイヤック、ペサック=レオニャン、サン・テミリオン、サン・テステフ、サン・ジュリアン、ソーテルヌ……。
こうした名高いアペラシオン(原産地呼称)とテロワールが連なるのが、ボルドー・ワイン街道(Route des Vins de Bordeaux)。
ボルドーを代表するワイン産地を巡る旅では、それぞれの土地が育んできた個性豊かなワイン文化に触れることができます。
ワイン文化体験施設「シテ・デュ・ヴァン」
周囲に広がる広大なブドウ畑の世界へと旅立つ前の導入として、これ以上ふさわしい場所があるでしょうか。
ユネスコ世界遺産にも登録されているワインの都ボルドー。そのガロンヌ川沿いに、黄金色に輝く大胆な建築がそびえています。独創的な曲線を描くこの建物、シテ・デュ・ヴァンでは、ワインの文化や歴史、そして世界各地のワイン文明をテーマにした、体験型の展示が楽しめます。
見学の締めくくりは、ボルドーの街を360度見渡せる展望フロアでのテイスティング。ワインとともに広がるパノラマが、特別なひとときを演出します。
さらに街の中心にいながらワイン畑を感じたいなら、数分の距離にあるシャトー・レ・カルム・オー・ブリオンへ。
樹齢を重ねた木々に囲まれた5ヘクタールの都市型ヴィンヤードでは、ユニークなワイン体験が待っています。船の舳先を思わせる現代的なワイナリー建築は、ボルドーが港町として発展してきた歴史と、世界的に知られるワイン文化へのオマージュでもあります。

グラーヴとソーテルヌ、ボルドーワインの原点へ
ボルドーのすぐ南に広がるグラーヴ地区は、2000年以上前にボルドーで初めてブドウ栽培が行われた場所とされています。ワイン造りの伝統が息づくこの土地では、格付けシャトーの名門ワインと、温かな雰囲気の家族経営の小さなワイナリーが共存しています。
グラーヴのワイン街道では、赤ワインだけでなく、ソーテルヌの甘美な貴腐ワインも楽しめるのが魅力。個性豊かなワイン産地を巡りながら、さまざまな体験プログラムに参加できます。
ユニークなテイスティングや体験型の見学、オリジナルのワークショップ、ランドアートを巡る散策など、家族でも楽しめるアクティビティが充実。収穫期には、実際にブドウの収穫に参加することもできます。訪れる際は、ぜひカゴや剪定ばさみ、帽子をお忘れなく。
そしてこの地域ならではの体験といえば、ワインを使ったスパ「ヴィノテラピー」。シャトー・スミス・オー・ラフィットの敷地内にあるラグジュアリーリゾート「レ・スルス・ド・コーダリー」では、ブドウの恵みを活かした特別なウェルネス体験が楽しめます。
グラーヴとソーテルヌのワイン街道は、まさに美食と癒やしを同時に味わえる、ボルドー屈指のエピキュリアンな旅です。
© FreeProd / Adobe Stock - Vignoble de Sauternes
メドック、格別のワインが生まれる地
ジロンド川の河口と松林、そして大西洋のビーチや湖に囲まれたメドック地方。ここには60の格付けシャトー(Grands Crus Classés)が集まり、ボルドーワインの名声を支えています。シャトー・ラフィット・ロートシルト、シャトー・ラトゥール、シャトー・マルゴー、シャトー・ムートン・ロートシルトなど、世界的に知られる名門が名を連ねます。
ボルドー北部からポワント・ド・グラーヴまで、約80kmにわたって続く「シャトー街道(Route des Châteaux)」では、サン・テステフ、サン・ジュリアン、マルゴー、リストラック、そしてポイヤックといった名高いアペラシオンを巡ることができます。ポイヤックでは「オディセ・ド・ラ・ローズ・ポイヤック」で、この地ならではの力強い赤ワインの世界を五感で体験できます。
観光案内所「メゾン・デュ・トゥーリスム・エ・デュ・ヴァン」では、提携シャトーの見学予約も可能。ワイン好きはもちろん、建築に興味のある人にも見応えがあります。伝統的な館から現代的なワイナリー建築まで、メドックには個性豊かなシャトーが点在しています。例えば“メドックのヴェルサイユ”と呼ばれるシャトー・ベイシュヴェルや、東洋宮殿を思わせる独創的なシャトー・コス・デストゥルネルなど、ワインとともに多彩な建築の魅力にも出会えるでしょう。
© Arcachonphoto.com / Adobe Stock - Vignoble de Margaux
サン・テミリオン、特別なワインの風景
ポムロールやフロンサックといった隣接するアペラシオンとともに広がる、サン・テミリオンのワイン産地。どこから巡ればよいか迷うほど、魅力に満ちた地域です。
まずは、中世の面影を残す美しい街サン・テミリオンの教会の鐘楼に登ってみましょう。町を見下ろす高台からは、ブドウ畑とドルドーニュ渓谷が織りなす壮大な景色が広がります。もう一つの歴史的な展望スポットが「王の塔(トゥール・デュ・ロワ)」。ジロンド県で唯一完全な形で残るロマネスク様式のドンジョンです。ここでは毎年6月に新酒の品質を宣言する「ジュラードの新酒審判」、そして9月には収穫開始を告げる「バン・デ・ヴァンダンジュ」が高らかに宣言されます。
ここはまさに、ボルドーでもとりわけ象徴的なワイン街道のひとつ。さらに理解を深めたいなら、ワイン学校「エコール・デュ・ヴァン」で行われる体験型の講座もおすすめです。
見どころはそれだけではありません。修道士エミリオンが暮らしたと伝えられるエルミタージュの洞窟、ヨーロッパ最大級の地下宗教建築であるモノリス教会など、歴史的遺産も充実。さらに、マリオ・ボッタやジャン・ヌーヴェルが手がけたシャトー・ラ・ドミニクやシャトー・フォジェールのモダンなワイナリー建築など、伝統と現代建築が共存する風景もこの地の魅力です。
© Ssamael334 / Adobe Stock - Vignoble de Saint-Emilion
アントル・ドゥ・メール、ボルドーワインの多彩な表情
ボルドーのワイン産地の中でも最も広大な地域が、アントル・ドゥ・メール Entre-deux-Mers 。
南をガロンヌ川、北をドルドーニュ川に挟まれたこの土地では、穏やかな海洋性気候が育む風景と、中世の歴史遺産が調和しています。堂々とした城塞都市カディヤックをはじめ、歴史ある町並みも見どころです。
起伏に富んだ地形や多様な土壌、日照条件の違いが、この地域のワインに豊かなバリエーションをもたらしています。辛口の白ワインから甘口ワイン、赤、ロゼ、クレレ、クレマン、さらには蒸留酒「フィーヌ・ド・ボルドー Fine de Bordeaux」まで、多彩なスタイルのワインが楽しめます。生産者を訪ねながら巡ることができるルートも、実に10種類ほど用意されています。
また、地域の魅力をゆっくり味わうなら、自転車での散策もおすすめ。かつての鉄道路線を活用した全長47kmのグリーンウェイが整備されており、アントル・ドゥ・メールの田園風景を自分のペースで巡ることができます。中世の家々や風車、バスティード、修道院、ロマネスク教会などを眺めながら、景色とワインの両方を楽しむ旅へ出かけてみてはいかがでしょうか。
© SpiritProd33 / Adobe Stock - Village et château de Cadillac
ブライユとブール、ジロンド河口の静かなワイン産地
ジロンド河口の中心、名高いメドックのブドウ畑を対岸に望む場所に、ブール=シュル=ジロンドとブライユの丘陵地が広がっています。あまり知られていないこのワイン産地は、控えめながらも魅力に満ちたテロワールです。
この地域を訪れるなら、二つの個性的なワインルートがおすすめです。ひとつはジロンド川を進むクルーズで巡る水上ルート、もうひとつはドルドーニュ川沿いの石灰岩の断崖の上を走る陸路。どちらも、変化に富んだ風景を楽しめる旅になります。
川に浮かぶ小さな島々、岸辺に並ぶ高床式の漁小屋カレレ、岩壁に刻まれたトログロディットの住居、そしてかつて船乗りたちが暮らした家々の花咲く庭園。こうした景色が、旅の魅力をいっそう引き立てます。
ブライユ・コート・ド・ボルドーやコート・ド・ブールのワインとともに、この地の豊かな歴史にも触れてみましょう。ヴォーバンの要塞建築として知られるブライユのシタデルはユネスコ世界遺産にも登録されています。少し寄り道を楽しむような気分で歩けば、ワインと風景の奥深い魅力に出会えるはずです。
© OceanProd / Adobe Stock - Les remparts fortifiés de Bourg-sur-Gironde

by フィリアトル パスカル
旅行ジャーナリスト。未知なるフランスをご紹介します。 [email protected]






