環境に配慮したガストロノミーを切り拓くフランスのシェフたち

インスピレーション

美食とワイン

Nicolas Faramaz / AdobeStock
© Nicolas Faramaz / AdobeStock

この記事は 0 分で読めます2026年3月17日に公開

旬の食材を大切にすること、地域の小規模生産者との協働、廃棄物の削減やリサイクル、そして地産地消の取り組み。
フランスでは、こうした責任ある姿勢を料理に取り入れるシェフがますます増えています。
テロワールの魅力を生かしながら革新にも挑む彼らの料理は、いま新しいガストロノミーの形を生み出しています。

ここでは、ミシュランのグリーンスター(持続可能な食文化に積極的に取り組むレストランに与えられるシンボル)を獲得した、注目のシェフ7人をご紹介します。味わいとサステナビリティの最前線に立つ料理人たちです。

フミコ&アントニー・モーベール:ロワールのテロワールを映す料理

ブロワのレストラン「アッサ」を率いる、フミコ&アントニー・モーベール
© Restaurant Assa - ブロワのレストラン「アッサ」を率いる、フミコ&アントニー・モーベール

日本人で栄養士・パティシエールでもあるフミコと、フランスの食文化の系譜を受け継ぎ、農産物や薪火料理に情熱を注ぐアントニー。料理でも人生でもパートナーであるふたりは、「アッサ(日本語で“朝”)」の名の通り、毎朝その土地の食材と向き合いながら料理を生み出しています。

ロワール川のほとりに位置するブロワのレストランでは、ロワール地方のテロワールを大切にした一皿が提供されます。ロワール=エ=シェール県の農場で育てられた豚肉、ブルグイユのブドウ畑で育つガチョウ、フレーヌの菜園のキャベツなど、仕入れはすべて車で20分圏内。

そこに加わるのが、日本の調味料というひとさじの個性。そば茶の香ばしいアクセントが、ブドウの枝で燻したリンゴの風味を引き立てるなど、日仏の感性が織りなす繊細なハーモニーが魅力です。

土地に根ざしながらも新しい表現を生み出す、ふたりのガストロノミー。ロワールの自然とともにある食体験がここにあります。

レストラン情報

アッサ(Assa)|ブロワ
※火災の影響により、現在はブロワ市内(26 avenue Maréchal Maunoury)にて仮店舗で営業中。改装工事完了後に元の場所へ戻る予定です。

クレール・ヴァレ:アルカション湾発、ヴィーガンの情熱

レストラン『ONA(オナ)』のシェフ、クレール・ヴァレ
© Maxime GAUTIER - レストラン『ONA(オナ)』のシェフ、クレール・ヴァレ

アルカション湾近郊でスタートし、いま新たな舞台へと歩みを進めるシェフ、クレール・ヴァレ。
「不可能だと思われていたことを、あえて実現する」――そんな言葉がふさわしい、情熱あふれるパティシエール兼シェフです。世界で初めてヴィーガン料理でミシュラン2つ星を獲得した彼女は、植物性料理への情熱をかたちにするため、自らのレストランを立ち上げました。

現在はロワール地方、ナント近郊の漁師町トランテムーで、レストラン「ONA(Origine Non Animale)」を展開しています。ここでは肉や卵、乳製品を一切使わず、樹皮やハーブ、食用花、スパイスなど、植物の力を最大限に引き出した料理が提供されます。

オリーブオイルやはちみつ、ビネガーを巧みに使いながら構成されるコースは、地中海を巡る旅のよう。オーガニックの季節食材を軸に、古代ローマの食文化に着想を得た独創的な料理が並びます。

食感や味わいのコントラスト――サクサクとした軽やかさ、なめらかさ、甘みと塩味、生と火入れの妙――それらが繊細に重なり合い、幼少期を過ごしたドロームの記憶やブルターニュでの経験も感じさせます。考古学の道から料理の世界へと転身した彼女ならではの、探究心あふれるガストロノミーです。

植物の可能性を追求し続ける彼女の料理は、これまでの常識を覆す新しい美食体験として、多くの食通を魅了しています。

レストラン情報

Restaurant ONA(レストラン・オナ)|トランテムー(ナント近郊)

ティエリー・シュヴァルツ:アルザスの大地とともにある料理

ティエリー・シュヴァルツが手がける、トリュフのフラムクーヘン
© Restaurant Thierry Schwartz - ティエリー・シュヴァルツが手がける、トリュフのフラムクーヘン

アルザス地方オベルネで、約20年にわたり“自然派ガストロノミー”を追求してきたのがシェフ、ティエリー・シュヴァルツです。ジョエル・ロブションのもとで経験を積んだ彼は、地元の小規模生産者と深く関わりながら、土地に根ざした料理を提案しています。

農事功労章を受章した彼は、アルザスにおけるガチョウの生産を守る取り組みや、忘れられつつあった穀物や野菜、果物の再生にも尽力してきました。料理はすべて季節の食材を中心に、地元で循環する食材を使用し、多くはビオディナミ農法によるものです。

そのメニューは、新しい味覚の発見へと誘います。店内には発酵専用の部屋が設けられ、オリーブのような風味を持つイチゴや黒にんにく、乾燥キノコなど、独創的な食材が生み出されています。

パンは自家製、そして料理に合わせるワインはすべてオーガニックかつ無添加(1,200種以上)。さらに、自家製ジュースやソーダによるノンアルコールのペアリングも用意されており、多彩な楽しみ方が可能です。

自然と向き合いながら、新たな味覚を切り拓く一軒です。

レストラン情報

ティエリー・シュヴァルツ(Restaurant Thierry Schwartz)|オベルネ(アルザス地方)

アラン・ペリヤ=メルスロ:サヴォワの味わいを一皿に

サヴォワで活躍するシェフ、アラン・ペリヤ=メルスロ
© L'Atelier Sylvain Madelon - サヴォワで活躍するシェフ、アラン・ペリヤ=メルスロ

湖から一皿へ――。
ブルジェ湖を見下ろすシャレー風レストラン「アトモスフェール」では、その美しい景色を眺めるだけでなく、湖の恵みそのものを味わうことができます。

スタンダールやラマルティーヌにも愛されたこの湖の風景。その魅力は、料理にも息づいています。サヴォワのテロワールをこよなく愛するシェフ、アラン・ペリヤ=メルスロは、カワカマスやチャブ、ラヴァレなど、アルプスの湖で獲れる魚を積極的にメニューに取り入れています。

さらに、エクス=レ=バンの市場で出会う野菜やチーズなど、地元の生産者の食材からもインスピレーションを得た料理を展開。ワインリストの約60%はアルプス圏のワインで構成されており、土地の個性を存分に楽しむことができます。

湖と山の恵みを感じる、サヴォワならではのガストロノミー体験です。

レストラン情報

アトモスフェール(Restaurant Atmosphères)|ル・ブルジェ=デュ=ラック(ブルジェ湖畔)

フロラン・ピエトラヴァル:プロヴァンスの恵みを余すことなく

シェフ、フロラン・ピエトラヴァル
© La Mirande - シェフ、フロラン・ピエトラヴァル

少しのミステリーも、この店の魅力のひとつ。
アヴィニョンの「ラ・ミランド」で体験できるローカヴォール(地産地消)のテーブルでは、シェフ、フロラン・ピエトラヴァルのすべてを知ることはできなくても、その食材の背景はしっかりと知ることができます。

サプライズメニューを味わった後には、使用された食材の生産者名と所在地が記されたカードが手渡される仕組み。すべてこの地域に根ざした食材です。

教皇庁宮殿のすぐそばに佇む歴史的な邸宅で、料理は南仏の香りに満ちています。カマルグのジャガイモ、リル=シュル=ラ=ソルグのマス、ヴォクリューズ産の黒トリュフなど、土地の恵みを丁寧に引き出した一皿が並びます。

さらに驚かされるのが、その創造性。ホテルの屋上ではハーブを育て、地下のセラーではコーヒーかすを使ってキノコを栽培するなど、ユニークな取り組みも行われています。

伝統と革新、そして土地との深いつながりを感じるガストロノミー体験です。

レストラン情報

ラ・ミランド(Restaurant La Mirande)|アヴィニョン

テュグデュアル・ドゥベチュンヌ:ブルターニュが育むウェルビーイングな料理

シェフ、テュグデュアル・ドゥベチュンヌ
© Galerie Holen - シェフ、テュグデュアル・ドゥベチュンヌ

藻類を使ったオーガニック塗料の壁、心地よいソファ、選び抜かれた本が並ぶ空間――。レンヌにある「ホレン(ブルトン語で“塩”の意)」は、デンマークの“ヒュッゲ”に着想を得た、心地よさと温もり、そして人とのつながりを大切にした場所です。

この新しい一軒を手がけるのが、季節の食材を何よりも大切にするシェフ、テュグデュアル・ドゥベチュンヌ。食材はストックせず、週に3回市場へ足を運び、ブルターニュの発酵乳「レーズ・テオ」や自家製パンのための有機小麦粉、パーマカルチャーで育てられた野菜などを仕入れています。魚は、過度な漁を行わない沿岸の漁船から届くもののみを使用。

こうして生まれる一皿は、余計なものを削ぎ落としたシンプルさと、素材そのものの力強さが際立ちます。まるで花崗岩のかけらのように、無駄のない、ピュアな味わい。

ブルターニュの自然と調和しながら、心と体にやさしく寄り添うガストロノミー体験です。

レストラン情報

ホレン(Restaurant Holen)|レンヌ(ブルターニュ地方)

ローラン・シェルシ:オクシタニーのテロワールが響く料理

シェフ、ローラン・シェルシ
© Reflet d'Obione - シェフ、ローラン・シェルシ

地中海沿岸のラグーンに自生する植物「オビオーヌ」を象徴的に用いることは、シェフ、ローラン・シェルシにとって偶然ではありません。自ら採取するこの植物は、彼にとって“土地の個性”そのものを表しています。

グルテンフリーを基本に、ベジタリアンやヴィーガンにも対応したメニューを展開しながら、ガストロノミーと健康の調和を目指す若きシェフ。太陽の恵みを受けた野菜や野生の植物を大切にし、サリコルニアやタイム、ローズマリーなども自ら採取しています。

肉類も、ピレネー産の豚「ティラブシオ」や子羊「シア」、山の牛など、地域の食材にこだわり抜いています。

デザートは動物性ゼラチンを使わず、グルテンフリーかつ砂糖控えめ。それでいて満足感のある味わいに仕上げられています。ワインリストもまた、すべてオーガニックまたはビオディナミの生産者によるもの。

土地と向き合い、身体にもやさしい料理を提案する、オクシタニーの新しいガストロノミーです。

レストラン情報

ルフレ・ドビオーヌ(Restaurant Reflet d’Obione)|モンペリエ(オクシタニー地方)

by ドゥロルム アンヌ=クレール・

旅行ジャーナリスト

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