モン・サン・ミッシェルが再び島に

西洋の驚異と言われる建築遺産モン・サン・ミッシェルとその湾が、**10**年にわたる大規模な工事を経て、かつての姿を取り戻しました。今後モン・サン・ミッシェルは、大潮時の数時間、完全な‘孤島’となります。

堤防路やダム建設など、数世紀にわたり人の手が加えられた結果、モン・サン・ミッシェル周辺の湾域では砂の堆積が進みました。海は徐々に後退し、陸地とプレ・サレ(塩分を含んだ牧草地)が拡大し、城壁下に広がる駐車場がその景観を損ねていました。

中世期にモン・サン・ミッシェルの地に修道院を築いた僧侶達は、「周囲を海に囲まれ孤立した島」という環境にこそ聖性を見出し、宗教建築の中でも最も類まれなものとされる現修道院を建設することを決めたのです。

この状況に際し、世界の専門家たちの見解ははっきりしていました。「もしこのまま何も方策がとられなければ、2040年頃にはモン・サン・ミッシェルは砂地(プレ・サレ)に取り囲まれてしまう」。

次世代の人々や、世界各地から訪れる観光客が、人類の宝であるモン・サン・ミッシェルを本来あるべき姿で見学することができるよう、EUとフランス政府、ノルマンディー地方とブルターニュ地方が、共同でモン・サン・ミッシェル湾再開発プロジェクトを立ち上げました。

人気観光地である歴史遺産の保全

1995年に調査が開始され2005年に工事に着工したモン・サン・ミッシェル湾再開発プロジェクトは、ヨーロッパで行われた文化事業の中でも最も特異な内容のものでした。プロジェクトの主たる目的は、人類が創造した宗教建築の最高峰モン・サン・ミッシェルに本来の景観を取り戻し、湾域の環境保全に努め、陸地から島へ「渡る」という考えを基本にモン・サン・ミッシェルへのアクセスを一新することにありました。

クエノン川河口堰、再開発プロジェクトの要

新しいクエノン川河口堰は、川に十分な水力を与え、放水により堆積物を島から離れた沖合へ押し流します。その水力効果だけではなく、河口堰そのものが風景に溶け込んでいる点も見どころです。河口堰はモン・サン・ミッシェルへの新しいアクセス路でもあり、意匠を凝らした建築で観光客を迎えます。

「渡る」という精神に立ち返る

再開発プロジェクトでは、「渡る」という考えを基本に陸地とモン・サン・ミッシェルを結び、変わりゆく風景の中で様々なモン・サン・ミッシェルの姿を楽しみながら島へ向かって進むアクセス路が設けられました。新しい受け入れ施設、新しいアクセス路、新しい移動手段。すべての人が無理なくモン・サン・ミッシェルに行けるよう、受け入れ態勢が再考されました。

新しい渡り橋で水面を歩く体験を

モン・サン・ミッシェル湾の再開発プロジェクトに伴い、新たに建設された各構造物に共通しているのは、非常に高い技術が駆使されたと同時に、景観の保存を追求している点です。渡り橋を設計したディトマール・ファイヒティンガーは、このような設計姿勢はモン・サン・ミッシェルと湾における持続可能な発展に着眼した故であると述べています。: 「モン・サン・ミッシェルへ近づく過程、それはただの経路というのに留まらず、島に渡ってから散策するのと同じくらい大事な過程なのである。水平線の遥か彼方、海に取り残された“どこか”と表現しても良いようなモン・サン・ミッシェルに辿り着くために、橋を渡るという行為にかかる時間は必要不可欠なものなのだ。幾何学的構造で造られた橋は、切れ目無く流れるような動きで陸地からモン・サン・ミッシェルまでを結んでいる」

新設駐車場は、島から離れた陸地側に

新しい駐車場はモン・サン・ミッシェルから2.5km離れた陸地側に設けられています。駐車場、および観光案内所がある場所からは無料シャトルバスが運航している他、徒歩でのアクセスも可能です。歩いていく場合は渡り橋を渡って島に入ります。シャトルバスからの降車はモン・サン・ミッシェルから400mほど手前となっており、歩行者は何にも遮られることのないモン・サン・ミッシェルの島と湾の素晴らしい姿を堪能することができます。

再び島が蘇る魔法

潮が満ち、潮流係数が110を超えるたびに、モン・サン・ミッシェルは陸地から完全に切り離された「島」となります。城壁は海水に浮かぶ形になり、この間、島へのアクセスは不可能になります。数時間しか続かないこの現象は、今日まで130年もの間見ることができなかったものです。島内の岩壁は、大潮を観察するのに一番理想的な展望台と言えるでしょう。

Le Mont-Saint-Michel 

Grande Rue, 50170 Le Mont-Saint-Michel